富士山を「西から真正面に」仰いで泊まる宿として、編集部は静岡・富士宮の田貫湖畔に建つ休暇村富士を選んだ。朝霧高原の南端、湖面標高660mの田貫湖の一番奥。全60室が例外なく富士山側を向き、温泉浴場の窓もレストランの席も、同じ方角を向いて設計されている。富士五湖側の華やかさとは別の種類の静けさが、この西麓にはある。秋、空気が澄み、稜線の輪郭が鋭くなる季節に、大人ふたりで1泊2日を過ごす一軒として深く読む。

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。


休暇村富士 — 静岡県富士宮市・田貫湖畔 · 富士箱根伊豆国立公園内、湖の最奥に建つ全60室の高原リゾート
PHOTO: 休暇村富士 — 公式サイトを見る →

HotelPicks Score: 93 / 100  60室(和室20室・洋室40室)、田貫湖畔の高原リゾート。

目安価格 ¥33,000–¥49,000 / 泊 (2名1室・通常期)

田貫湖の一番奥、という立地

富士宮市の公式案内は、田貫湖を「広大な朝霧高原の一角に位置し、富士山の全景を真東に仰ぐ」湖と説明しています。東西1km、南北0.5km、周囲3.3km。湖面には霊峰富士と、その反対側に控える天子ヶ岳が映り込む。休暇村富士が建つのは、その湖の最も奥にあたる西端です。つまり宿の窓は、湖を手前に置いて、その向こうに富士山を正面から捉える位置にある。この配置がこの宿のすべてを決めていると言っていい。

富士山を望む宿は数多くありますが、山梨側の富士五湖に比べ、静岡・富士宮側は宿泊施設そのものが少ない。朝霧高原は酪農地帯であり、リゾート開発の圧力を受けてこなかったエリアです。だからこそ、夜になると湖畔の光は宿の窓の分だけになる。富士箱根伊豆国立公園の区域内という制約が、結果として景観を守ってきた土地である、と言える。

アクセスは車が前提です。新東名高速道路の新富士ICから約45分、東名高速道路の富士ICから約50分、中央自動車道の河口湖ICから約50分。公共交通ではJR富士宮駅前から富士急静岡バスの休暇村富士行きに乗り、終点で降りればバス停は宿の目の前(所要約45分)。なお東京駅八重洲南口発の高速バスは2023年6月1日より運行休止中で、鉄道とバスを乗り継ぐ経路が現実的な選択肢になります。

全60室が富士を向く、という設計


休暇村富士 洋室ツイン — 富士宮市佐折 · 26.8㎡、全客室が富士山側を向く客室設計
PHOTO: 休暇村富士 洋室ツイン — 公式サイトを見る →

客室は全60室。内訳は洋室40室と和室20室で、公式は「全客室富士山ビュー」と明記しています。眺望の良い部屋と、そうでない部屋を作らない。この一点が、休暇村富士という宿の輪郭を決めています。上層階の希望は予約の早い順に案内される仕組みで、部屋タイプによる眺望の当たり外れという概念が、そもそも存在しません。

大人ふたりなら洋室ツインが基本になります。26.8㎡、幅1,100mmのベッドが2台、ユニットバス・トイレ付き。窓辺には対の椅子と小さなテーブルが据えられていて、家具の配置が明確に「窓の外を見る」ことを前提にしている。和室は10畳でトイレ・洗面付き(浴室はなし)、定員5名なので二人には広く使えます。フリーWi-Fi、冷蔵庫、湯沸かしポット、加湿空気清浄機は全室共通。客室とコテージは全館禁煙で、喫煙コーナーは2階と4階にあります。

窓一面の富士、露天のない温泉


休暇村富士 温泉浴場「富士山恵みの湯」 — 富士宮市佐折 · 自家源泉のアルカリ性単純泉、窓一面に富士山を望む内湯
PHOTO: 休暇村富士 富士山恵みの湯 — 公式サイトを見る →

温泉は「休暇村富士田貫湖温泉 富士山恵みの湯」。自家泉源の掘削に成功し、ホテル脇の地下約1,200mから毎分64.9リットルが湧出しています。開湯は2010年、宿の開業10周年にあたる年でした。泉質は無色透明でほぼ無臭のアルカリ性単純泉。公式表記はpH9.8(温泉ページ)とpH10.0(よくある質問)で分かれますが、いずれにせよ高アルカリ性で、肌がなめらかになる種類の湯であることは変わりません。

ここで正直に書いておきたいのは、この宿に露天風呂はないということです。公式も質問ページで明言しています。あるのは、湯船の正面が床から天井までガラスになった内湯。晴れた日には湯に浸かったまま富士山の全景が視界を占める、という構造です。露天を作れば湯気と塀と樹木が視界に入る。それをしないという判断が、この宿の設計思想を最も端的に表していると編集部は受け取りました。あわせて、サウナはありますが水風呂は設置されていません。

入浴時間は14:00〜24:00と翌朝5:00〜10:00。朝5時から入れる点は、日の出が6時前後になる秋の朝には効いてきます。清掃時間は10:00〜12:00。換水日は毎週火曜が男湯、木曜が女湯で、10:00〜14:00は入浴できません。曜日で計画を立てるタイプの宿です。

駿河会席か、静岡を集めたビュッフェか

夕食は「旬のコース料理」と「ビュッフェ」から選ぶ形式です。コースは駿河会席と名づけられ、3か月ごとに献立が入れ替わる。秋の会席は9月1日から11月30日までの設定で、駿河湾の魚と富士山の伏流水で育った食材を軸に組まれます。公式が挙げるこだわり食材は、春に新茶、夏にニジマス、秋に桜エビ、冬にみかん。桜エビが秋に置かれているのは、駿河湾の秋漁があるからです。

ビュッフェを選ぶと、和洋中およそ50種が並びます。静岡おでん、富士宮やきそば、富士山の湧水で育った虹鱒といった、この土地でしか成立しない品が中心にある。ライブキッチンでローストビーフや握り鮨、揚げたての天ぷらが供されます。二人旅ならコース、食べ歩きの延長として捉えるならビュッフェ、という選び分けになるでしょう。追加の一品料理も用意されていて、桜えび&しらすの刺身セットが1,200円、静岡県産和牛サーロイン200gが3,000円(3日前まで要予約)といった価格帯です。

レストランの夕食営業は17:15開店、20:30閉店で、最終入場は19時。都市のホテルの感覚で20時に食事を始める計画は成立しません。朝食はビュッフェで、釜揚げのしらすと桜えびをご飯にのせる「駿河丼」、沼津の学校給食に由来するアジの素揚げなどが並びます。公式トップページでは「田貫湖朝御膳」とあわせた2コース案内も出ています。

秋という季節を、正しく読む

ここが本稿でいちばん書きたかった部分です。「朝霧高原」という地名から、秋の朝に霧や雲海が湧く土地だと考えられがちですが、富士宮市の公式説明は違うことを述べています。朝夕の霧の発生が多いのは5月から8月にかけてで、それが地名の由来である、と。つまり霧を目当てにするなら初夏から盛夏であり、秋ではありません。

ダイヤモンド富士も同様です。田貫湖で富士山頂から朝日が昇るのは4月20日前後と8月20日前後の約1週間ずつ、年に2回だけ。湖面に映る逆さ富士と重なると太陽の輪が二つ光り、ダブルダイヤモンド富士と呼ばれます。この現象が秋に起きることはありません。

では秋にこの宿を選ぶ理由は何か。ひとつは空気の透明度です。夏の湿った大気が抜け、稜線の輪郭が鋭くなる。富士宮市も田貫湖について「春の桜から秋の紅葉まで、雄大な富士山をバックに美しい風景画が広がる」と記しています。もうひとつは静けさで、湖畔のキャンプと釣りの繁忙が一段落する。そして三つめが価格です。公開販売価格を集計すると、8月の水準に対して9月から11月はおよそ¥6,000低い帯で推移しています。霧とダイヤモンドを外した秋は、この宿を最も落ち着いた条件で使える季節だと言えます。

大人ふたりの1泊2日

チェックインは15:00。到着したらまず温泉に入り、日没前の富士山を湯船から見ておくのが順当です。夕食は17:15以降、19時までに入場。食後の時間には無料の参加プログラムが用意されていて、日曜と木曜は20:00から「夜空を見上げる会」(田貫湖富岳テラスで約20分、定員20名、宿泊者無料)、月・水・金は19:45から静岡茶の淹れ方講座、火曜は折り紙で富士山を折る会が3階のカフェテラスで開かれます。曜日によって夜の過ごし方が変わる、という設計が面白い。

翌朝は5:00から温泉が開きます。6:45にはスタッフが案内する「レイクサイドウォーキング」が毎朝催行され、約30分、無料、予約不要(雨天中止)。自分たちで歩くなら、田貫湖畔をひと回りする「自然の小径」が約4km・約60分で、地図はフロントにあります。チェックアウトは10:00と早めなので、朝を丁寧に使う旅程が向いています。

帰路に寄るなら、白糸の滝が車で約10分。高さ20m、幅150mの湾曲した絶壁から富士山の雪解け水が湧き出す滝で、隣接する音止の滝までは約15分。源頼朝の富士の巻狩りにまつわる陣馬の滝が約15分、冨士山本宮浅間大社と静岡県富士山世界遺産センターがそれぞれ約30分です。浅間大社の本殿は徳川家康が寄進したもので、国の重要文化財に指定されています。

集約レビューが映すこの宿の本質

公開レビューデータを集計すると、この宿の評価は「立地と眺望」に強く牽引されていることが読み取れます。同エリアの中規模施設と比べて評点が高い水準にあり、しかも件数が非常に多い。件数の多さは、季節や天候にかかわらず一定の満足が積み上がっていることを意味します。富士山が見えなかった日の落胆も当然含まれているはずで、それを織り込んでなお高い、という点に編集部は注目しました。

一方で、傾向として分かれるのは施設そのものへの期待値です。開業から四半世紀が経った建物であり、意匠の新しさや客室の広さを主眼に選ぶと評価は下がる。逆に、食事と温泉と眺望という基本の三つに絞って見る人ほど満足度が高い。休暇村という運営形態上、客層が家族連れからシニアまで幅広く、静寂を最優先する宿ではないという点も、事前に理解しておきたいところです。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    富士山を正面から静かに見たい大人ふたり、車で移動する旅程、朝5時からの入浴と6:45の朝散歩を使い切れる早起きの人、静岡の食材を軸に食事を組みたい人
  • 向かない:
    露天風呂やサウナの水風呂を目的にする人(どちらも設置がない)、客室露天や新しい意匠を求める人、20時以降に夕食を始めたい人(最終入場19時)、公共交通だけで気軽に往復したい人(駅からバス45分・高速バスは運行休止中)

具体情報

  • 所在地: 静岡県富士宮市佐折634(富士箱根伊豆国立公園内・田貫湖西端)
  • アクセス: 新東名 新富士ICから車で約45分/JR富士宮駅から富士急静岡バス休暇村富士行きで約45分、終点下車すぐ
  • 客室: 全60室(洋室40室・和室20室)/洋室ツイン 26.8㎡・定員2名、和室10畳・定員5名/全客室富士山ビュー
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
  • 温泉: 自家源泉「富士山恵みの湯」アルカリ性単純泉(地下約1,200m・毎分64.9L・2010年開湯)/入浴 14:00〜24:00、5:00〜10:00/サウナあり・露天風呂なし・水風呂なし
  • 食事: 夕食は駿河会席(3か月ごと替わり)または和洋中約50種のビュッフェから選択/朝食ビュッフェ/レストラン夕食 17:15〜20:30(最終入場19:00)
  • 駐車場: 無料80台(定期送迎バスはなし/新富士駅からの路線バス「まかいの牧場」下車で送迎車あり・1日1便・要予約)
  • 開業: 2000年(温泉は2010年開湯)
  • その他: 客室・コテージは全面禁煙(2階・4階に喫煙コーナー)/別棟にコテージ20棟、うち10棟が犬同伴可/日帰り温泉・ランチ営業は2024年3月31日で終了

HotelPicks Score

93 / 100 — 内訳の考え方は次のとおりです。立地は、田貫湖の最奥という代替の効かない位置取りで最高評価。眺望は、全60室が富士山を向くという設計の徹底が決定的で、これが総合点を押し上げています。温泉は自家源泉と展望内湯を評価する一方、露天風呂と水風呂の不在で満点には届かない。食は駿河湾と富士山麓の食材を季節ごとに入れ替える構成を高く見ています。価格感は、2名1室¥33,000〜¥49,000という帯に対して、温泉・夕朝食・国立公園内の眺望が揃う点で妥当と判断しました。評点は公開レビューデータの集計と、編集部によるテーマ適合度の加点で構成しています。

よくある質問

Q. 富士山が見える確率はどのくらいですか?

A. 気象条件次第で、宿側も天候による見え方の変化を明示しています。一般に、大気中の水蒸気が減る秋から冬にかけては稜線が見える日が増え、夏は雲がかかりやすい傾向があります。全客室が富士山側を向いているため「部屋によって見えない」ということは起こりませんが、天候による不確実性は残ります。晴天を狙うなら、滞在を1泊で終えず翌朝にもう一度賭ける、という前提で組むと納得しやすい。

Q. ダイヤモンド富士はいつ見られますか?

A. 田貫湖では4月20日前後と8月20日前後の約1週間ずつ、年に2回だけです。富士山頂から朝日が昇り、湖面の逆さ富士と重なると太陽の輪が二つ光る「ダブルダイヤモンド富士」になります。秋には見られません。この時期は混雑するため、宿の予約は相応に早い段階で埋まります。

Q. 露天風呂はありますか?

A. ありません。温泉浴場は、湯船の正面が一面ガラス張りになった内湯です。晴れていれば浴槽から富士山の全景を望めます。サウナは併設されていますが、水風呂は設置されていません。露天風呂を条件にする場合は、この宿は候補から外すのが妥当です。

Q. 車がなくても行けますか?

A. 行けます。JR富士宮駅前から富士急静岡バスの休暇村富士行きに乗り、終点で下車すればバス停は宿のすぐ前です(約45分)。新幹線なら新富士駅から富士急静岡バスの富士山行きで約35分、富士宮駅で乗り換える経路になります。ただし東京駅八重洲南口発の高速バスは2023年6月1日より運行休止中です。定期の送迎バスはありませんが、新富士駅から富士急静岡バスの富士山行きに乗り「まかいの牧場」で降りれば、宿の送迎車が約10分で迎えに来ます(1日1便のみの予約制)。周辺観光まで含めるなら車のほうが自由度は高くなります。

Q. 犬と泊まれますか?

A. ホテル客室では不可ですが、別棟のコテージ全20棟のうち10棟が犬と同泊できます。1LDKの貸別荘タイプで、コテージ内はシャワー室のみのため、温泉大浴場を利用する場合は入湯税150円(大人のみ)がかかります。コテージのチェックインは15:00〜21:00、チェックアウトは10:00です。

Q. 冬に車で行くときの注意点は?

A. 宿は冬期に全線が積雪・凍結することがあると案内しており、スタッドレスタイヤかタイヤチェーンの携行を求めています。標高660mの高原で国道139号から湖畔へ下る道を通るため、都市部の感覚では判断しないほうがよい。路面状況は国土交通省の道路ライブカメラで事前に確認できます。

本記事の参考情報

・富士宮市「田貫湖」 — 湖の規模、ダイヤモンド富士の時期
・富士宮市「朝霧高原」 — 地名の由来と霧の発生時期
・環境省 富士箱根伊豆国立公園 — 公園区域と自然環境の背景

編集部から

この宿を取材対象に選んだのは、「全室から見える」という一文が、実際には相当に重い設計判断だと気づいたからです。眺望を売る宿の多くは、良い部屋と普通の部屋を作り、価格で差をつける。休暇村富士はそれをしていない。建物の向きと客室配置を景色に従属させた結果、露天風呂を諦め、意匠の派手さも諦めている。何を取り、何を捨てたかが、これほど明快に読める宿は多くありません。

そして秋。朝霧もダイヤモンドも季節が違うと分かったうえで、それでも秋を推したい。霧が晴れ、人が引き、価格が下がり、富士山の稜線だけがくっきり残る。宿が最初から一貫して見せようとしてきたものが、いちばん素直に見える季節だからです。次は同じ富士山西麓で、朝霧高原の酪農文化を軸にした一軒を探してみたいと考えています。あなたは富士山を、東から見ますか、それとも西から見ますか。

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