加賀温泉郷で老舗の湯宿に泊まるなら、山代・山中・片山津の三つの湯から、編集部は次の5軒を選びます。三湯はいずれも石川県加賀市にあり、北陸新幹線の加賀温泉駅から車で8分から25分ほどの距離に集まっています。開湯1300年の伝説と北大路魯山人の足跡が残る山代、芭蕉が「おくのほそ道」の途上で逗留した渓谷の山中、柴山潟と白山を望む片山津。性格の異なる三つの湯を、一度の旅で泊まり比べ、湯めぐりできる土地は多くありません。2024年3月16日に北陸新幹線が敦賀まで延び、大阪から加賀温泉駅までは敦賀乗り換えで約2時間10分、京都からはさらに短くなりました。蟹と紅葉の季節を前に、関西から向かう湯と文学の北陸を案内します。

# ホテル エリア 客室 目安価格 1行特徴
1 あらや滔々庵 山代温泉 17 ¥145–¥211k 寛永16年に遡る湯番頭の家。源泉露天付き客室が11室
2 湖畔の宿 森本 片山津温泉 28 ¥48–¥73k 柴山潟と白山を望む湖畔の湯。5軒中で最も手の届きやすい価格帯
3 たちばな四季亭 山代温泉 20 ¥105–¥169k 全館桐床と部屋食。チェックアウト12:00で最大21時間滞在
4 花紫 山中温泉 27 ¥176–¥235k 全室渓谷ビュー。懐石と茶房、アートを軸にした滞在
5 白鷺湯たわらや 山中温泉 43 ¥48–¥98k 鎌倉期に遡る創業八百年。渓流露天と幅のある価格帯
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※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

1. あらや滔々庵 — 山代温泉

山代の湯元に十八代。魯山人が逗留した湯宿として、編集部が最初に推したい一軒。

17室、湯の曲輪に建つ小規模旅館。

目安価格 ¥145,000–¥211,000 / 泊 (2名1室・通常期)


あらや滔々庵 — 加賀市・山代温泉 · 山庭に面した源泉露天風呂付き客室、湯の曲輪に十八代続く湯宿
PHOTO: あらや滔々庵 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

山代温泉の中心「湯の曲輪」で、藩主の湯壺の鍵を預かる湯番頭を務めた家が営む宿です。選んだ理由は三つあります。第一に、湯元ならではの湯量。公式の案内では1日約10万リットルが湧き、大浴場にも客室の半露天風呂にも源泉がかけ流されています。第二に、17室のうち11室に源泉露天風呂が付くこと。第三に、北大路魯山人が大正期に逗留した縁で、館内に書や器、衝立が残ること。湯と器と建物が一つの文脈でつながる宿と言えます。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、今回の5軒のなかでも評価の水準が高く、湯の質と館内の静けさに支持が集まる傾向が見て取れます。食事は全室が椅子とテーブルの個室で供される形式で、器と料理の取り合わせを含めた評価が目立ちます。一方、価格帯は5軒のなかで上位にあり、費用に対する期待値も相応に高くなります。客室数が少ないため、週末や蟹の季節は希望の客室タイプを選びにくいという声が出やすい宿でもあります。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    器や書に関心のある大人の二人旅、客室の源泉露天風呂で静かに過ごしたい記念日の旅、総湯と古総湯を歩いて巡りたい人
  • 向かない:
    価格を抑えたい旅程(5軒中で上位の価格帯)、大型旅館の賑わいや館内施設の多さを求める家族旅、湖や渓谷の眺望を第一に考える人(庭と街並みの宿)

具体情報

  • 最寄り駅: JR加賀温泉駅(北陸新幹線)。古総湯まで徒歩 1 分、いろは草庵まで徒歩 3 分
  • 客室: 17 室(うち源泉露天風呂付 11 室)、収容 50 名
  • チェックイン: 14:00〜 / アウト 〜11:00
  • 食事: 全室、椅子・テーブル席の個室食事処
  • 浴場: 露天風呂付大浴場 2、特別浴室 1(源泉かけ流し)
  • 駐車場: 30 台(無料)
  • 創業: 寛永16年(1639年)に初代が湯番頭の役を受けたことに始まり、当代で十八代


2. 湖畔の宿 森本 — 片山津温泉

柴山潟の水際に明治25年創業。湖と白山を湯船から眺める、片山津を代表する一軒。

28室、柴山潟に面した中小規模旅館。

目安価格 ¥48,000–¥73,000 / 泊 (2名1室・通常期)


湖畔の宿 森本 — 加賀市・片山津温泉 · 柴山潟を正面に望む和洋室、明治25年創業の湖畔旅館
PHOTO: 湖畔の宿 森本 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

片山津温泉の魅力は、柴山潟という湖がそのまま借景になることに尽きます。森本はその水際に建ち、大浴場と露天風呂の正面に湖が広がります。選んだ理由は、まず眺望。次に、公式に泉温73度と案内される塩化物泉の、湯冷めしにくい浴感。そして加賀温泉駅から車で8分という近さです。今回の5軒では最も価格帯が穏やかで、関西から列車で着いてそのまま湯に入るという旅程を組みやすい宿と言えます。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、5軒のなかで評価の水準が最も高い宿です。湖を望む浴場と客室、そして応対の細やかさが、支持の中心にあると読み取れます。食事は北陸の魚介と能登牛を軸にした会席で、価格に対する納得感が高い傾向があります。一方で、建物には年数を重ねた部分があり、客室タイプによって新旧の印象に差が出やすい点は留意したいところです。改装を経た客室と基本客室のどちらを選ぶかで、滞在の印象が変わります。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    湖の眺めと湯を主役にしたい夫婦や友人同士の旅、列車で着いてすぐ宿に入りたい関西発の1泊旅、費用を抑えつつ老舗に泊まりたい人
  • 向かない:
    温泉街のそぞろ歩きを楽しみたい人(片山津は街歩きの密度が低め)、最新の設えを全室に求める人(客室タイプで新旧の差あり)、遅い朝を過ごしたい人(チェックアウトが10:00)

具体情報

  • 最寄り駅: JR加賀温泉駅から車で 8 分(事前予約制の定刻送迎あり、迎え 14:50〜18:20・30 分毎)
  • 車: 北陸自動車道 片山津ICから 5 分、小松空港からタクシーで 15 分
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜10:00
  • 食事: 北陸の魚介と能登牛を軸にした会席
  • 温泉: 塩化物泉、泉温 73 度。湖に面した大浴場・露天風呂・貸切風呂
  • 駐車場: 60 台(無料・屋外)
  • 創業: 明治25年(1892年)


3. たちばな四季亭 — 山代温泉

明治元年創業、床はすべて桐。素足で歩き、部屋で食べる、旅館らしさを守る一軒。

20室、湯の曲輪の小規模旅館。

目安価格 ¥105,000–¥169,000 / 泊 (2名1室・通常期)


たちばな四季亭 — 加賀市・山代温泉 · 庭に開いた大浴場、明治元年創業で全館の床が桐張りの宿
PHOTO: たちばな四季亭 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

山代の湯の曲輪で明治元年から続く宿です。推す理由の一つ目は、全館の床に桐の無垢材を張り、素足で過ごせること。二つ目は、夕食も朝食も客室で取る部屋食を基本にしていること。三つ目は、チェックイン15:00、チェックアウト12:00という時間設定で、最大21時間を宿で過ごせることです。2023年3月には露天風呂付きの和ジュニアスイート6室が加わり、古い宿の骨格に新しい客室が重なっています。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、評価は高い水準で安定しており、部屋食の落ち着きと応対の丁寧さに支持が集まる傾向があります。朝食を10時まで取れる時間設定を含め、滞在のゆとりが評価の軸になっていると感じられます。一方、客室タイプによる価格差が大きく、露天風呂付きの新しい客室と従来の和室では印象が分かれます。新しい和ジュニアスイートは食事が個室食事処になるため、部屋食を目当てにする場合は予約時に確かめておきたい点です。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    部屋食でゆっくり過ごしたい二人旅や三世代の旅、朝を急がず正午まで宿にいたい人、総湯や古総湯に歩いて通いたい人
  • 向かない:
    食事会場での賑やかな夕食を好む人、価格を抑えたい1泊旅(客室タイプによって価格帯が上がる)、渓谷や湖の景色を求める人

具体情報

  • 最寄り駅: JR加賀温泉駅から無料送迎バスで約 15 分(事前連絡制、迎えは 14:30〜18:00 の毎時 0 分・30 分)。タクシーも約 15 分
  • 客室: 12.5 畳の和室・和洋室、15 畳の露天風呂付和ジュニアスイート(6 室)、最上階 100 ㎡の和洋室など
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜12:00
  • 食事: 夕食・朝食とも部屋食が基本(和ジュニアスイートは個室食事処)
  • 駐車場: あり(無料)
  • 創業: 明治元年(1868年)。2023年3月に露天風呂付和ジュニアスイートを新設


4. 花紫 — 山中温泉

全客室から鶴仙渓。明治35年創業の湯宿が、現代の文化サロンへと姿を変えた一軒。

27室、鶴仙渓に面した小規模旅館。

目安価格 ¥176,000–¥235,000 / 泊 (2名1室・通常期)


花紫 — 加賀市・山中温泉 · 鶴仙渓の緑を望むスイートの居間、明治35年創業の渓谷沿いの宿
PHOTO: 花紫 — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

芭蕉が「おくのほそ道」の途上で逗留した山中温泉。その景勝地である鶴仙渓を、すべての客室から望めるのが花紫です。選んだ理由は、渓谷に最も近い大浴場と最上階の露天風呂という二つの湯場、料理長のおまかせ懐石と冬の蟹懐石、そして茶房とアートを組み込んだ館内の構成にあります。前身の山田屋は明治35年の創業で、当時は珍しかった内湯を備えた宿でした。新しいものを持ち込むという姿勢が、今の設えにも通じています。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、評価は良好な水準にあり、渓谷の眺めと食事、館内の設えへの支持が中心にあります。一方、5軒のなかで最も高い価格帯であることから、費用に見合うかどうかという視点での評価が分かれやすい傾向も読み取れます。静かに過ごすことを前提にした宿であり、賑やかさや気軽さを期待すると印象が合わない場合があります。最終チェックインが18:00と早めに設定されている点も、旅程を組むうえで押さえておきたいところです。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    食と器、アートを目的にした大人の旅、鶴仙渓の紅葉や新緑を客室から眺めたい人、記念日に静かな宿を探している二人
  • 向かない:
    価格を抑えたい旅程(5軒中で最も高い価格帯)、到着が夜になる旅程(最終チェックイン18:00)、小さな子どもと賑やかに過ごしたい家族旅

具体情報

  • 最寄り駅: JR加賀温泉駅から無料送迎あり(前日までに申込)
  • 客室: 全室が鶴仙渓に面する。基本和室、ベッド付き和室、露天風呂とサウナを備えたユニバーサルスイートなど
  • チェックイン: 14:00〜(最終 18:00)/ アウト 〜11:00
  • 食事: おまかせ懐石、冬季は特撰 蟹懐石
  • 浴場: 最上階の露天風呂と、鶴仙渓に隣接する大浴場
  • 創業: 明治35年(1902年)、前身の山田屋として


5. 白鷺湯たわらや — 山中温泉

山中の「湯本十二軒」でただ一軒残る宿。創業八百年、渓流露天風呂が看板の一軒。

43室、鶴仙渓沿いの中規模旅館。

目安価格 ¥48,000–¥98,000 / 泊 (2名1室・通常期)


白鷺湯たわらや — 加賀市・山中温泉 · 鶴仙渓の森を正面に望むガラス張りのロビー、創業八百年の湯宿
PHOTO: 白鷺湯たわらや — 公式サイトを見る →

なぜ選ばれるか

山中温泉を再興した十二人の家来が営んだと伝わる「湯本十二軒」。公式の案内によれば、そのうち現在も続く宿はたわらや一軒です。選んだ理由は、まずこの来歴。次に、鶴仙渓の流れに面した渓流露天風呂。そして総湯「菊の湯」やあやとりはしまで徒歩約5分という、温泉街の歩きやすさです。2023年4月と2025年10月には源泉露天風呂付きの客室が加わり、手頃な和室から特別室まで選択の幅が広い宿になっています。

集約レビューの傾向

公開レビューデータを集計すると、5軒のなかでは評価が分かれる宿です。渓流沿いの露天風呂と立地への支持が厚い一方、運営の割り切りに対する受け止め方に差が出ています。宿自身が公式に明示しているとおり、客室までの案内や荷物運び、客室でのお茶出しは行わず、その分フリードリンクを充実させる方針です。二つの大浴場に広さの差があることも明示されています。こうした前提を知ったうえで選ぶと、価格との釣り合いを取りやすい一軒と感じられます。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    山中温泉の街歩きと鶴仙渓の散策を主にしたい人、気兼ねのない距離感の応対を好む人、予算に合わせて客室タイプを選びたいグループや家族
  • 向かない:
    仲居が付く昔ながらの旅館の応対を期待する人(部屋案内・お茶出しなし)、どの時間帯も広い浴場を使いたい人(男女入替で広さに差)、虫や落ち葉が気になる人(渓流と山に囲まれた立地)

具体情報

  • 最寄り駅: JR加賀温泉駅から無料送迎バスで約 20 分(事前予約制)、路線バスで約 40 分
  • 車: 北陸自動車道 加賀ICから約 20 分
  • 客室: 43 室。和室、和洋室、源泉露天風呂付特別室、サウナ付き客室など
  • チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
  • 食事: 加賀会席を中心に、フレンチのコースも用意
  • 駐車場: 80 台(無料)
  • 周辺: 鶴仙渓遊歩道・総湯「菊の湯」・あやとりはしまで各徒歩約 5 分
  • 創業: 鎌倉時代。公式に「創業八百年」。全館禁煙


よくある質問

Q. ベストシーズンはいつですか?

A. 編集部が推す時期は二つあります。一つは蟹漁が解禁される11月上旬から冬にかけて。もう一つは鶴仙渓の紅葉が進む11月と、新緑の5月です。蟹の季節は価格が上がり、客室数の少ない宿から埋まります。湖の眺めが主役の片山津は、空気の澄む晩秋から冬に白山が見えやすくなります。

Q. 関西からのアクセスは?

A. 大阪からは特急サンダーバードで敦賀へ向かい、北陸新幹線に乗り換えて加賀温泉駅まで約2時間10分が目安です。京都からはさらに短くなります。乗り換えの接続によって所要時間は変わるため、時刻は出発前に確かめてください。車の場合は北陸自動車道の加賀ICまたは片山津ICを使います。

Q. 1泊で三つの湯を巡ることはできますか?

A. 泊まる宿は一つに絞り、残りの二湯は総湯(共同浴場)に立ち寄る形が現実的です。山代には総湯と古総湯、山中には「菊の湯」、片山津には片山津温泉総湯があります。加賀温泉駅から片山津は車で約8分、山代は約15分、山中は20分から25分ほど。2泊できるなら、湖の片山津と、山代か山中を1泊ずつ組み合わせると三湯の違いがよくわかります。

Q. 駅から宿までの移動手段は?

A. 今回の5軒のうち、湖畔の宿 森本、たちばな四季亭、花紫、白鷺湯たわらやの4軒は、加賀温泉駅からの送迎を公式に案内しています。いずれも事前の予約や連絡が必要で、森本とたちばな四季亭は30分間隔の定時運行です。到着時刻が決まったら早めに宿へ伝えておくのが確実です。あらや滔々庵を含め、山代・片山津へはタクシーの利用もしやすい距離にあります。

Q. 子連れでも泊まれますか?

A. 5軒のなかでは、湖畔の宿 森本と白鷺湯たわらやが家族旅に向きます。森本は小学生と未就学児それぞれの料金と食事を公式に案内しており、たわらやには子ども向けの食事とバリアフリー対応の和洋室があります。あらや滔々庵と花紫は静けさを前提にした宿で、年齢による受け入れ条件は予約前に宿へ確かめるのが安心です。

Q. 海外からの旅行者にも向きますか?

A. 5軒とも公式サイトに英語の案内があり、たちばな四季亭は中国語と韓国語のページも備えています。部屋食、素足で歩く桐の床、総湯を囲む街並みといった要素は、日本の温泉文化を体験したい旅行者に伝わりやすい内容です。小規模な宿が多いため、食事の制限や到着時刻は予約の段階で伝えておくと滞在が滑らかになります。

本記事の参考情報

・山代温泉観光協会 — 開湯の由来、湯の曲輪と総湯・古総湯
・山中温泉観光協会 — 芭蕉の逗留、山中温泉の歴史
・片山津温泉観光協会 — 柴山潟と総湯の案内

編集部から

5軒に通底する選定の軸は、宿の歴史がその温泉地の成り立ちと結びついているかどうかです。湯番頭の家、湯本十二軒の最後の一軒、湖畔に明治から建つ宿。どれも、街を歩けば宿の来歴が確かめられる場所にあります。一方で、価格帯にはかなりの幅があり、応対の流儀も宿ごとに違います。老舗という一語でくくらず、湯と眺めと過ごし方のどれを優先するかで選ぶのがよいと編集部は考えます。敦賀延伸から2年半が過ぎ、関西からの北陸は日帰り圏ではなく「泊まりに行く湯」として定着しつつあります。さて、最初の一泊は街の湯、渓谷の湯、湖の湯のどれにしますか。

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