三重県志摩市・賢島の丘に建つ志摩観光ホテル ザ クラシックは、記念日の一泊を「料理を目的に」選ぶ大人ふたりに、編集部が一軒だけを推すならここだという宿である。1951年4月3日に伊勢志摩国立公園の賢島で開業し、2026年に開業75周年を迎えた。伊勢海老と鮑を主役に据えた「海の幸フランス料理」は40年以上にわたって受け継がれ、2016年のG7伊勢志摩サミットでは主会場として各国首脳を迎えている。そして2027年1月12日からは、ザ クラシック館内の厨房設備改修工事が始まる。料理を目的にこの宿を訪ねるなら、訪問時期そのものが判断材料になる。本稿は、その一点まで踏み込んで書く。

宿名 志摩観光ホテル ザ クラシック
所在 三重県志摩市阿児町神明731(賢島)
客室 114室/28〜約96㎡
目安価格 ¥107,000–¥191,000 /泊(2名1室・通常期)
料理 伝統の「海の幸フランス料理」/夕食 ¥21,000〜
推す時期 2026年11月–12月(伊勢海老の漁期内/厨房改修前)

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。


志摩観光ホテル ザ クラシック — 三重県志摩市・賢島 · 英虞湾のリアス海岸と真珠筏を見下ろす丘に建つ1969年竣工の本館
PHOTO: 志摩観光ホテル — 公式サイトを見る →

歴史と建築 — 迎賓館として建てられた宿

戦後いち早く国立公園に指定された伊勢志摩に、洋式のホテルが要る。三重県庁を中心にそう話し合われ、近鉄・三重県・三重交通の出資で建てられたのが志摩観光ホテルです。開業は1951年4月3日、当時は客室25室・定員48名。この最初の建物は、現在「ザ クラブ」として残っています。

設計は村野藤吾。公式の記録によれば、資材の乏しい時代に、村野が1944年に手がけた鈴鹿海軍工廠高等官集会所の柱や梁を移築して建設されました。梁と柱の松材は、百五銀行頭取にして陶芸家でもあった川喜田半泥子の山から切り出されたものだといいます。デザインの下敷きになったのは村野自身の設計による叡山ホテルでした。

本稿の主役である「ザ クラシック」は、その18年後、1969年7月22日に竣工した新館です。当時は客室200室・定員400名で、国内最大級のリゾートホテルとして話題を集めました。現在は114室規模に整えられ、客室にはいまも村野の意匠が残ります。スイートの一つ「クラシックアンバサダー」は村野の設計によるもので、G7伊勢志摩サミットで首脳が使った「ロイヤルスイート」には、村野が手がけた照明器具と家具が置かれています。開業から2年に満たない1951年11月には昭和天皇が滞在し、庭園から望む英虞湾の景色を賞して翌年正月に御製を発表しました。作家・山崎豊子が『華麗なる一族』の冒頭に英虞湾の黄昏を置いたのも、この宿に幾度も通った時間の産物です。名だたる建築家の作品でありながら、その骨格が海軍施設の移築材に由来するという出自の重層性が、この宿を単なる「古いホテル」から切り離しています。

料理 — 「海の幸フランス料理」という一本の線


レストラン ラ・メール ザ クラシック — 志摩市賢島 · 英虞湾に沈む夕陽が差し込む客席とシャンデリア
PHOTO: 志摩観光ホテル — レストラン公式ページ →

この宿を語るときに外せないのが、40年以上前に生まれた「海の幸フランス料理」です。伊勢志摩は古代の朝廷に食物を納めた「御食つ国」であり、その土地の魚介を、フランス料理の技法で一皿に組み上げる。看板は二つ。肉厚の鮑を伝統の技法で下ごしらえした鮑のステーキと、注文を受けてから生きたまま調理する伊勢海老アメリカンソースです。

系譜も明快です。第5代総料理長・高橋忠之は著書『美食の歓び』に「火を通して新鮮、形を変えて自然」と書き、その言葉はいまもレストランのコンセプトに引用されています。第6代・宮崎英男は現在名誉料理長。そして第7代・樋口宏江が、2016年のサミットで各国首脳を迎えた晩餐を組み立てました。三代にわたって同じ一本の線が引かれている料理は、日本のホテルでも数が限られます。

舞台となるのは館内のレストラン「ラ・メール ザ クラシック」。夕食は17:30〜21:00(L.O.19:30)で ¥21,000〜、昼食は11:30〜14:30(L.O.13:30)で ¥10,300〜、朝食は7:00〜10:00(L.O.9:30)にブッフェとオリジナルの卵料理が用意されます。196席、全席禁煙、夕食時のドレスコードはスマートカジュアル。Tシャツ・ショートパンツ・ダメージジーンズ・ビーチサンダルでの入店は控えるよう公式に明記されています。記念日の一泊なら、この一点は事前に共有しておきたいところです。


ラ・メール ザ クラシックのフルコース — 伊勢海老を含む前菜からデザートまでの皿が並ぶテーブル
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いつ行くか — 初冬を推す二つの根拠

「旬だから初冬」という言い方は、この宿に関しては半分しか正しくありません。編集部が2026年11-12月を推すのは、次の二点が確認できるからです。

一つ目は伊勢海老。三重県漁業調整規則第35条は、いせえびの採捕禁止期間を5月1日〜9月30日(鳥羽市離島地域以北の海域は5月1日〜9月15日)と定めています。つまり10月に解禁を迎え、11-12月は漁期のただ中にあたる。伊勢海老を目的にこの宿を訪ねるなら、初冬という選択には明確な裏づけがあります。

二つ目は厨房です。公式のお知らせによれば、2027年1月12日(火)よりザ クラシック館内の厨房設備改修工事が実施されます。工事期間中は一部施設で営業内容を変更する場合があり、詳細は決定次第案内されるとのこと。料理を目的にこの一軒を選ぶ旅であれば、通常運営が確認できる2026年内に予約を固めるほうが、判断としては堅い。

一方で、注意しておきたい点もあります。同じ規則の第35条は、あわびの禁止期間を9月15日〜12月31日と定めています。「初冬は伊勢海老と鮑の旬」という言い回しは広く流通していますが、三重県の水域に限れば、この時期の鮑は採捕の対象外です。鮑のステーキは公式の宿泊プランにも通年で並ぶ看板料理であり、初冬に食べられないという話ではありません。ただし「三重の鮑がいちばん良い季節だから初冬に行く」という理解は、規則の条文と噛み合わない。初冬に狙うべきは、あくまで伊勢海老です。

伊勢志摩の海の幸 — 伊勢海老・鮑・金目鯛など、志摩観光ホテルの海の幸フランス料理に使われる食材
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滞在の体験 — 夕陽を待つための動線

丘の上、という立地がそのまま体験になっている宿です。ザ クラシックの屋上展望台からはリアス式海岸の複雑な稜線と、鏡面のような英虞湾が見渡せます。公式によれば、ここからの夕景は「日本の夕陽百選」に選ばれたもの。日没の30分前に上がり、色が変わりきるまで待つ。それだけで、この宿に泊まる理由の半分は満たされます。

宿泊者限定のゲストラウンジには、リーディングルームとリスニングルームが併設され、デッキから英虞湾を一望できます。菓子と飲み物はセルフスタイル。3館を結ぶ庭園と金刀比羅参道は自然の散策道で、11-12月なら人の少ない時間に歩けます。ザ クラブには開業当時の姿のまま残る茶室「愚庵」と、当日のスケジュールや食事メニュー、サミットテーブルを展示する伊勢志摩サミットギャラリーがあります。

客室は28㎡のコンフォートツインから、約96㎡のロイヤルスイートまで。窓側のベンチシートから真珠筏の浮かぶ湾を眺めるプレミアムツイン(36㎡)、木のぬくもりと畳のリビングを持つプレミアムスイート(79㎡)など、同じ館内でも性格がはっきり分かれます。大人ふたりの記念日なら、湾に正対する部屋を指定できるかを予約時に確認する価値があります。

集約レビューが映すこの宿の本質

公開レビューデータを集計すると、この宿の評価は「料理」と「景色」の二本柱に強く集中していることが読み取れます。件数の多い母集団のなかで、料理の完成度と、英虞湾の眺望・夕景に触れる声の比重が突出している。逆に、館の年代に由来する部分――設備の新しさや客室の広さ――については、評価が割れる傾向が見て取れます。1969年竣工の建物であることを踏まえれば、これは弱点というより性格の表れです。

もう一つ、集約傾向として明確なのが「再訪」の多さです。長年通う層と、記念日で初めて訪れる層が同居しており、両者で満足のポイントが少し異なる。前者は料理の系譜と館の空気を、後者は夕景と非日常性を挙げる。編集部の見立てでは、初訪問で満足度を最大化するには、夕食を明るいうちに始められる時間で予約し、日没を挟んで食事が進む組み立てにするのが良い。日没が16時台まで早まる12月なら、17:30の開店直後がその条件に合います。

立地と周辺

賢島は、潮が引けば歩いて渡れたことから「徒越え島」と呼ばれ、それが訛って現在の表記になったとされる小島です。1929年の志摩電気鉄道(現・近鉄志摩線)開通とともに真珠養殖の資材基地として整備され、いまも湾には真珠筏が浮かびます。ホテルまでは近鉄賢島駅から無料シャトルバスで約2分。名古屋からは近鉄特急で約2時間10分、大阪難波からは約2時間35分、東京からは新幹線と近鉄特急を乗り継いで、乗り換え時間を含めて約4時間。車なら伊勢西ICから約40分で、駐車場は無料です。

周辺では、伊勢神宮内宮と志摩スペイン村を結ぶ「パールシャトル」が利用できます。1泊では物足りない、と公式が自ら書いている通り、伊勢志摩国立公園のリアス海岸は移動に時間がかかる土地です。料理を目的に来るなら、初日は移動と夕陽と食事だけに充て、翌日に周辺を回る組み立てが現実的だと考えます。

向く人 / 向かない人

  • 向く:
    料理を旅の主目的に据える大人ふたり、記念日に「歴史のある場所」を選びたい人、伊勢海老を漁期のうちに食べたい人、車で伊勢志摩を周遊しながら一泊だけ格を上げたい旅程
  • 向かない:
    最新設備と広い客室を最優先する人(本館は1969年竣工で、標準客室は28㎡から)、大浴場での入浴を重視する人(スパ&サウナは姉妹館ザ ベイスイートの宿泊者専用)、屋外プールを目当てにする旅(夏季のみの営業で、2026年は9月24日まで)、公共交通で短時間に着きたい旅程(主要都市から片道2〜4時間)

具体情報

  • 最寄り駅: 近鉄賢島駅から無料シャトルバスで約2分
  • 客室: 114室/28㎡(コンフォートツイン)〜約96㎡(ロイヤルスイート)
  • チェックイン: 14:00〜 / アウト 〜11:00
  • 食事: 夕食はレストラン「ラ・メール ザ クラシック」の海の幸フランス料理 ¥21,000〜(17:30〜21:00 / L.O.19:30)、朝食はブッフェ(7:00〜10:00 / L.O.9:30)
  • ドレスコード: 夕食時スマートカジュアル、全席禁煙
  • 開業: 1951年4月3日(ザ クラシックの建物は1969年7月22日竣工)
  • 設計: 村野藤吾
  • 駐車場: 無料。EV充電器はザ クラシック第1駐車場に2台、第2駐車場に2台
  • 言語対応: 公式サイトは日本語・英語・韓国語・中国語(簡体/繁体)
  • 注意: 2027年1月12日よりザ クラシック厨房設備改修工事(一部施設の営業内容変更の可能性あり)

編集部の評価

公開レビューデータを集計した評価に、立地・規模・テーマ適合度の編集判断を加えた総合値です。料理の系譜と夕景という二つの資産が突出して高く、建物の年代に由来する設備面と、主要都市からの所要時間が減点要素にあたります。「料理を目的に一軒を選ぶ」というテーマに限れば、国内でも上位に置ける一軒だと考えます。

よくある質問

Q. ベストシーズンはいつですか?

A. 料理を主目的にするなら、編集部が推すのは10月から12月です。三重県漁業調整規則で伊勢海老の採捕禁止期間は5月1日〜9月30日と定められており、10月以降が漁期にあたります。加えて、空気が澄んで英虞湾の夕景が締まるのもこの時期。2027年1月12日から厨房設備改修工事が予定されているため、2026年内であれば通常運営で訪ねられます。

Q. 予約のタイミングは?

A. 記念日利用と紅葉期が重なる11月の週末は早く埋まります。公開販売価格を集計すると、2026年11-12月は、各日の最安プランで見ても週末が ¥50,000台、平日が ¥35,000–¥46,000 と差がはっきり出ます。日程に融通が利くなら平日を選ぶと価格も静けさも取れます。伝統のフルコースを含むプランは日数・室数限定で出るため、料理目当てなら2〜3か月前には押さえたいところです。

Q. 子連れでも泊まれますか?

A. 泊まることはできます。コンフォートツインとプレミアムツインは定員2〜3名で、ザ ベイスイートには3名で泊まれるFUTONスイートもあります。ただしザ クラシックのレストランは夕食時にスマートカジュアルのドレスコードがあり、フルコースは所要時間も長い。小さな子ども連れなら、夕食の内容と時間を予約時に相談しておくのが現実的です。

Q. アクセスは?

A. 近鉄賢島駅から無料シャトルバスで約2分です。名古屋から近鉄特急で約2時間10分、大阪難波から約2時間35分、東京からは新幹線のぞみで名古屋へ約1時間40分、名古屋駅での乗り換え徒歩約10分を挟んで近鉄特急約2時間10分。車の場合は伊勢西ICから県道32号経由で約40分、大阪方面からは玉城ICから県道169号(サニーロード)経由で約50分。駐車場は無料です。

Q. 大浴場や温泉はありますか?

A. ザ クラシックには大浴場がありません。スパ&サウナ(浴場)は姉妹館ザ ベイスイートの宿泊者専用施設です。一方でザ クラシック向けにも、フランスのスパブランドのトリートメントが付いた宿泊プランが用意されています。入浴を旅の柱に据えるなら、この点は事前に確認しておく必要があります。

Q. インバウンド客の利用は?

A. 公式サイトは日本語・英語・韓国語・中国語(簡体/繁体)で展開されており、賢島は開業当初から真珠の買い付けに来る海外バイヤーが訪れる土地でした。2016年のG7伊勢志摩サミット以降、海外からの認知も広がっています。集約レビューでも、日本の近代建築と地域食材のフランス料理という組み合わせに対する評価が確認できます。

本記事の参考情報

・志摩観光ホテル 公式サイト — 沿革・客室・レストラン・アクセス・お知らせ
・三重県漁業調整規則(体長制限等) — いせえび・あわびの禁止期間(第35条)
・環境省 伊勢志摩国立公園 — リアス海岸と英虞湾の地理的背景
・観光三重 — 賢島・志摩エリアの観光情報

編集部から

一軒だけを深く書くと決めたとき、選定の軸に置いたのは「その宿にしかない時間の厚み」でした。1951年の建物が海軍施設の移築材でできていること、三代の総料理長が同じ一本の線を引き続けていること、そして夕陽が沈むまで待つという行為そのものが商品になっていること。この三つが同時に成立している宿は、そう多くありません。
そして本稿でもう一つ書きたかったのは、「旬」という言葉を鵜呑みにしない姿勢です。伊勢海老は条文で漁期が確認できる。鮑はそうではない。同じ「海の幸」でも、根拠のある話とない話が混ざっている。宿を選ぶときに、どこまで確かめてから予約ボタンを押すか。次はその線引きを、別の土地で試してみたいと考えています。

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