新潟県十日町市・松之山温泉 凌雲閣は、1938年(昭和13年)に宮大工棟梁が一室ずつ手掛けた木造三階建ての旅館である。日本三大薬湯のひとつ松之山温泉の中で唯一、2010年に国登録有形文化財に指定された建物として残る一軒。豪雪地の長い冬が明け、田畑が青く色づく7月中旬の梅雨明けに、近代和風建築の柱と梁を仰ぎ、舐めると塩辛い古代海水起源の薬湯に身を沈める旅程として、編集部が真っ先に推したい宿だ。
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。

松之山温泉 凌雲閣 — 新潟県十日町市松之山
1938年、宮大工が一室ずつ意匠を変えて建てた木造三階建て。日本三大薬湯のひとつ、松之山温泉で泊まれる唯一の文化財旅館。
HotelPicks Score: 95 / 100 17室、木造三階建ての登録有形文化財旅館。
目安価格 ¥31,000–¥42,000 / 泊 (2名1室・通常期)
歴史と建築
凌雲閣の本館は昭和13年(1938年)、初代主人が新潟県内外から名のある宮大工を集め、各人にひと部屋ずつ担当させて建てたと伝わる。一室ごとに天井の組み方、欄間の彫り、床の間の構成が異なり、同じ意匠の部屋がふたつとない。三階建ては当時の木造旅館としては希少で、雪国の重い積雪に耐えるための深い軒、太い柱、急勾配の屋根が随所に確認できる。2010年(平成22年)に本館・湯小屋などが国登録有形文化財に指定され、建物そのものが宿泊体験の中心となる一軒として再評価された。改修は最小限にとどめられ、玄関の鷲の浮彫衝立、ロビーの大時計、磨き込まれた廊下の床板は当時のまま。建築写真の被写体としても近年注目を集めている。
滞在の体験

客室は本館の二階・三階に配される。畳の縁から床柱、欄間まで部屋ごとに異なるため、二度目以降の滞在では別の客室を指定する楽しみが残る。多くの部屋に丸窓や色ガラスがあしらわれ、棚田や山並みを切り取る額縁のように働く。湯は鏡の湯(内湯)と、別棟の露天とに分かれ、源泉はナトリウム-カルシウム-塩化物泉。塩分濃度が高く、舐めると明確にしょっぱい。色は日や時間帯で透明から朝緑色へと揺らぐ。湯上がりの肌に塩が薄く残り、保温が長く続くのが特徴で、雪国の体感温度が低い季節に体の芯を温める力が強い。食事は地元郷土料理を軸とした夕食・朝食の構成で、春の山菜、夏の岩魚、秋の茸、冬のへぎそばと、季節色がはっきり出る。料理長が地元の山に入って採るものも多く、品書きはその日の収穫で変動する。
集約レビューが映すこの宿の本質
公開レビューデータを集計すると、凌雲閣の評価は「建物」「温泉」「料理」「主人と女将の人柄」の四点に強く偏る。新築の快適性や至れり尽くせりの設備ではなく、文化財そのものに泊まる体験への満足が高い。一方、客室にトイレが付かない部屋がある点、エレベーターがない木造三階建ての構造、客室Wi-Fiの安定性については、現代的なホテル基準を期待する層からの落差が見て取れる。バリアフリーや段差解消は構造上難しく、宿側も率直に伝えている。「歴史的建造物に泊まる旅館」という前提を受け入れた上での滞在に、評価が大きく傾く一軒だと言える。
立地と周辺

松之山は十日町市の南端、長野県境に近い山あいに位置する。日本有数の豪雪地で、冬の積雪は4メートルを超える年もあり、雪解け水を蓄えた棚田の風景は「日本三大薬湯」「日本三大渓谷」「日本三大ブナの天然林」と並ぶ土地の個性を形作る。梅雨明けの7月中旬は雪国の春の遅れを取り戻すかのように緑が一気に濃くなり、夜は気温が下がり蛍が出る年もある。十日町市は3年に一度の大地の芸術祭の開催地で、棚田にアートが点在する里山風景は宿の窓からも届く。アクセスはJR越後湯沢駅から車で約75分、北越急行ほくほく線まつだい駅からは送迎の相談が現実的で、公共交通だけで完結させるのは難しい。車での移動を前提に旅程を組むのが無理がない。
こんな旅人に
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向く:
近代和風建築・宮大工の仕事を一晩かけて味わいたい人、希少な薬湯を体験したい温泉好き、車での周遊旅程を組める二人旅、写真や文章で文化財建築を記録したい人 -
向かない:
新築ホテルの快適性を最優先する人、客室にトイレが必須でエレベーターも欲しい人、駅からタクシーで短時間で着く宿を求める人、幼児連れで段差の多い館内を移動するのが難しい家族
具体情報
- 住所: 新潟県十日町市松之山天水越81(〒942-1435)
- 最寄り駅: JR越後湯沢駅から車で約75分/北越急行ほくほく線 まつだい駅から車で約20分(事前相談で送迎の可否あり)
- 客室数: 17室(本館・木造三階建て、全室異なる意匠)
- 食事: 夕食・朝食ともに地元郷土料理(山菜・茸・へぎそば・岩魚など季節食材中心)
- 創業: 本館は1938年(昭和13年)築、2010年 国登録有形文化財指定
- 泉質: ナトリウム-カルシウム-塩化物泉(日本三大薬湯のひとつ、源泉は古代海水起源)
- 所属: 日本秘湯を守る会会員宿
HotelPicks Score
95 / 100 — 評価の内訳は、立地(松之山温泉エリアでの圧倒的な存在感)、設備(文化財建築そのものを設備として評価)、体験(薬湯・郷土料理・建築鑑賞の三層構造)、価格感(同等の文化財旅館の中で中位の価格帯)、編集適合度(一軒の宿シリーズの主題に合致)の五軸で加点。新築ホテルの利便性とは異なる軸で評価された点数である。
よくある質問
Q. ベストシーズンはいつですか?
A. 編集部が推すのは梅雨明けの7月中旬から下旬。棚田の緑が最も濃く、夜は山の冷気で過ごしやすい。秋の紅葉(10月下旬〜11月上旬)、冬の雪見の薬湯(1〜2月)も人気が集中する季節で、価格帯は通常期より上昇する傾向。GWと盆は早期に埋まる。
Q. 予約のタイミングは?
A. 客室17室の小規模旅館のため、土曜日・連休・紅葉と雪見シーズンは2〜3ヶ月前に埋まる傾向。平日の通常期であれば1ヶ月前後の予約が現実的。日本秘湯を守る会のスタンプ帳利用者の指名買いもあり、特定の客室を希望する場合は早めの問い合わせが安全。
Q. 子連れでも泊まれますか?
A. 文化財の木造三階建てでエレベーターがなく、段差や急な階段もあるため、乳幼児を抱える家族には負担が大きい。小学校高学年以上であれば、建築・温泉・郷土料理という体験を理解できる年齢で、相性が良い。具体的な制約は事前に宿へ確認することを推す。
Q. アクセスは?
A. JR越後湯沢駅から車で約75分、北越急行ほくほく線まつだい駅から車で約20分(送迎相談可)。東京方面からは上越新幹線越後湯沢経由が一般的。公共交通だけで完結させるのは難しく、レンタカーか送迎の利用が現実的な選択。
Q. 日本三大薬湯とは?
A. 一般に有馬温泉(兵庫)、草津温泉(群馬)、松之山温泉(新潟)の三つを指す。共通点は源泉の濃度の高さと、医療的にも知られた古い湯治の歴史。松之山は前二者と比較して観光地化が抑えられ、宿の数も少なく、湯治色を残した数少ない薬湯エリアである。
本記事の参考情報
・文化遺産オンライン: 凌雲閣松之山ホテル本館 — 国登録有形文化財の指定情報
・十日町市観光協会: 凌雲閣 — 地域からの紹介情報
・Wikipedia: 松之山温泉 — 日本三大薬湯と地質の背景
編集部から
凌雲閣を取り上げたのは、文化財の旅館を一軒ずつ深掘りするHotelPicksの一軒シリーズの新章としてである。道後ふなや、下呂の湯之島館、村上の井筒屋、若狭のせくみ屋に続き、本作で扱うのは「日本三大薬湯」というもうひとつの軸を持つ宿。建築・湯・料理・運営が、特定の文化財だけを残すための意思を持って積み重ねられた結果として現在の姿がある、と編集部は読む。次は雪国の冬に同じ宿を訪ね、湯治の文脈での体験記事を編む予定である。本作が、文化財旅館を観光地としてではなく、建物に泊まる体験として捉え直すきっかけになれば。