40-50代男性のソロ旅で、長距離フェリーの個室を「移動手段」ではなく「宿」として選ぶ動きが、2026年に静かに戻っている。太平洋フェリー(名古屋–仙台–苫小牧)、新日本海フェリー(舞鶴/敦賀–小樽)、関西と九州を結ぶ航路。コロナ禍を経てスイートや特等個室が改装され、展望ラウンジ・大浴場・サンセットと日の出が一晩のなかに収まる。「前夜は船・翌夜は陸」という二段構えの旅程は、1泊2日のホテルでは得られない時間の質を持つ。本稿では到着地で迎える「翌夜の宿」を、太平洋ルート(苫小牧着→登別)、新日本海ルート(小樽着→小樽残留)、関西ルート(別府着→由布院)の3パターンで紹介する。
| 航路 | 翌夜の宿 | エリア | Score | 客室 | 目安価格 | 1行特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 太平洋(苫小牧) | 望楼NOGUCHI登別 | 北海道・登別温泉 | 93 | 40 | ¥112–¥147k | 全室展望露天風呂付スイート、登別の谷を見下ろす大人の宿 |
| 新日本海(小樽) | ホテルノイシュロス小樽 | 北海道・小樽 張碓 | 92 | 58 | ¥47–¥63k | 断崖に建つ全室オーシャンビュー、露天付の城型リゾート |
| 関西-九州(別府) | 由布院ことぶき花の庄 | 大分県・由布院 | 88 | 50 | ¥45–¥58k | 2,000坪の日本庭園と湯布院の老舗、駅徒歩5分の落ち着き |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。
フェリーが「宿」になる、という時間設計
長距離フェリーの「夜出航・朝着」は、移動の体感を一晩で切り替える。乗船と同時に荷物を客室へ、デッキで夕景を眺めながら缶ビールを開け、共用展望ラウンジで夜更けまで本を読む。深夜の太平洋を進む船の振動はホテルでは得難い眠気を運ぶ。朝、目覚めると窓の外は陸地で、ロビーには下船客のスーツケースが並んでいる。これが12〜20時間の船旅のリズムである。
2026年に40-50代男性ソロ層が再評価している理由は、コロナ禍を経た各社の客室改装にある。太平洋フェリー「いしかり」「きそ」「きたかみ」の特等A、新日本海フェリー「らべんだあ」「すずらん」のスイート、別府航路の特別室は、いずれも個室バス・テレビ・小机を備え、一人で完結する寝室として設計されている。乗船券に夕食バイキングと朝食をつけても、1泊2万円台で収まる航路が多い。これを翌夜の陸宿と組み合わせると、合計2泊の旅費が「都心のラグジュアリーホテル1泊」と同水準になる。
本稿で扱う3パターンはいずれも「フェリーの夜→陸の夜」という流れを前提に、翌夜の宿に「船旅の余熱を受け止める静けさ」を求めた。観光地巡りを目的にしない。船で一晩・宿で一晩を等価に過ごす。これがソロ旅の文法である。
パターン1. 太平洋フェリー苫小牧着 → 望楼NOGUCHI登別(北海道・登別温泉)
船で18時間揺られた身体を、登別の谷あいで一晩ほどく。全40室がすべて展望露天風呂付スイート、ソロ宿泊を受け入れる大人の宿。
HotelPicks Score: 93 / 100 40室、温泉旅館。
目安価格 ¥112,000–¥147,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
太平洋フェリー名古屋発「いしかり」「きそ」「きたかみ」は苫小牧東港に翌々日11時頃に到着する。港から登別温泉までは車で約50分。船で過ごした18〜20時間を経た身体には、観光地巡りより一軒の宿に長く籠る選択が合う。望楼NOGUCHIは全40室がスイート、すべての客室に登別の谷を見下ろす展望露天風呂を備える。野口観光グループの最上級ライン、開業2006年の比較的新しい施設で、和洋折衷の意匠と落ち着きある接遇が船旅後の身体を受け止める。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、客室露天風呂への評価が最も厚く、夕食の懐石とフレンチを融合した献立、夜と朝で別の浴室を回れる大浴場「四方の湯」の設計が高評価につながっている。一方で価格帯はソロ宿泊でも10万円を超えることが多く、若年層には届きにくい。40-50代の記念旅・節目の宿として位置づけられる傾向がある。スタッフ対応の丁寧さと、客室から一歩も出ずに過ごせる完結性が、船旅明けの静かな一夜を求める層に支持されている。
向く人 / 向かない人
-
向く:
船旅の余韻を一軒の宿で長く受け止めたい40-50代ソロ、記念日や節目の旅、観光地巡りを目的にしない人 -
向かない:
1泊の予算を5万円以下に抑えたい人、登別温泉街の繁華さを求める人、夕食を外で取りたい連泊型旅程
具体情報
- 最寄り: JR登別駅から車約20分 / 札幌駅・新千歳空港から有料シャトルバス運行
- 客室サイズ: 全室スイート、最小50㎡前後(展望露天風呂付)
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
- 食事: 夕食・朝食ともに個室会席(和洋折衷)
- 開業: 2006年(野口観光グループ最上級ライン)
- 大浴場: 男女入替制「四方の湯」、登別温泉の硫黄泉源泉かけ流し
パターン2. 新日本海フェリー小樽着 → ホテルノイシュロス小樽(北海道・小樽 張碓)
小樽港から車30分、断崖に立つ全58室すべてオーシャンビュー・露天風呂付。船で見た日本海の続きを、陸から眺め直す一夜。
HotelPicks Score: 92 / 100 58室、リゾートホテル。
目安価格 ¥47,000–¥63,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
新日本海フェリー敦賀発・舞鶴発の便はいずれも小樽港に翌日夕方20時前後に到着する。長旅の最終工程として小樽運河近くのホテルに泊まる選択肢もあるが、船で20時間日本海を眺めた身体には、運河エリアの観光地的賑わいよりも海岸線の静けさが合う。ホテルノイシュロス小樽は小樽港から車で約30分、張碓の断崖に建つウィーンの城を模した独立建築で、全58室のすべてが海に面し、すべての客室に露天風呂を備える。船で見た日本海の続きを、今度は陸から眺め直す一夜を提供する。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、夕陽の評価が突出して高い。日本海に沈む太陽を客室の露天風呂から眺める体験への言及が多く、夕食のフレンチコースと組み合わせて「ハネムーン以来の特別な夜」として位置づける利用者が目立つ。一方で立地は小樽駅・運河エリアから離れており、観光と組み合わせた滞在には不向きとの評価もある。船旅明けで「観光より休息」を選ぶソロ旅・記念旅には強く支持される傾向が見て取れる。地下大浴場「眺海」は窓開閉式の露天と乾式サウナを備え、長時間の船旅で凝った身体をほどく機能を持つ。
向く人 / 向かない人
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向く:
船旅の延長として日本海の眺めを陸でも味わいたい人、観光より休息を優先する記念旅、夕陽の時間に客室にいることを最優先する旅程 -
向かない:
小樽運河や寿司屋街の散策を予定する人、車を借りない旅程、温泉旅館らしい和の様式を求める人
具体情報
- 最寄り: 小樽港フェリーターミナルから車約30分 / JR張碓駅跡近く、小樽駅から車約20分
- 客室サイズ: 洋室(2名)と和洋室(4名)、全室露天風呂付・オーシャンビュー
- チェックイン: 15:00〜 / アウト 〜11:00
- 食事: 夕食フランス料理コース、朝食はビュッフェ・洋食のいずれか
- 開業: 2003年10月
- 大浴場: 地階「眺海」、窓開閉式露天・乾式サウナ・水風呂
パターン3. 関西-別府フェリー着 → 由布院ことぶき花の庄(大分県・由布院)
大阪南港・神戸三宮を夕方発、別府国際観光港に翌朝着。船を降りて1時間、由布院の2,000坪の庭園を抱える老舗旅館で二日目を過ごす。
HotelPicks Score: 88 / 100 50室、温泉旅館。
目安価格 ¥45,000–¥58,000 / 泊 (2名1室・通常期)

なぜ選ばれるか
関西と九州を結ぶ別府航路(フェリーさんふらわあ)は大阪南港・神戸三宮を夕方17〜19時に発し、別府国際観光港に翌朝6〜7時に着く。船室で一晩を過ごし朝6時に降りる旅程は、現地での時間を最大化する選択。別府温泉に直行する選択もあるが、船で12時間揺られた身体には別府の温泉街より、車で30分の由布院の静かな盆地が合う。由布院ことぶき花の庄は湯布院駅から徒歩5分、2,000坪の日本庭園と水車小屋・茅葺き「蛍舎」を備える老舗、創業1958年の50室旅館。船を降りた朝の時間を、庭園の散策と早めの温泉から始められる。
集約レビューの傾向
公開レビューデータを集計すると、由布岳を望むロビーと2,000坪庭園の散策、毎年9月開催の「湯布院薪能」が宿の文化的厚みとして語られている。露天風呂と離れの客室は世代を超えた利用者層に支持され、料理は地元の豊後牛と季節野菜を中心とした懐石が中心。湯布院街の中心部に近く、車を持たないソロ旅でも由布院駅から徒歩で完結する立地が評価軸として高い。一方で建物の年代を反映した設備の古さに触れる意見もあり、新築リゾート系を好む人には合わない場合がある。船旅の翌朝の到着時間に合わせ、早朝の温泉と朝食の柔軟性に対応してくれる運営が記憶に残る要素として挙げられる。
向く人 / 向かない人
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向く:
フェリー早朝着の旅程で日中も湯布院の街を歩きたい人、老舗旅館の和の様式を求める人、車を借りないソロ旅 -
向かない:
新築リゾートの設備感を優先する人、夕食を外の店で取りたい連泊旅程、別府の温泉街の喧騒を楽しみたい人
具体情報
- 最寄り: 別府国際観光港から車約45分 / JR由布院駅から徒歩約5分
- 客室サイズ: 本館・離れ・露天風呂付客室など多様(一人利用可プランあり)
- チェックイン: 14:00〜 / アウト 〜10:00
- 食事: 夕食は豊後牛中心の会席、朝食は和定食
- 創業: 1958年
- 大浴場: 内湯・露天、由布院温泉の自家源泉
よくある質問
Q. フェリー特等個室の予約はどのくらい前から取るべきですか?
A. 太平洋フェリー・新日本海フェリーの特等A・スイートは2026年7-9月のハイシーズンで2〜3ヶ月前から埋まり始める。週末発の便と夏休み期間は1ヶ月を切ると個室確保が難しくなるため、フェリー1泊+陸宿1泊の組み合わせを組むなら船室を先に押さえてから到着地の宿を選ぶ流れが現実的。
Q. ソロ旅で個室は1人利用できますか?
A. 太平洋フェリーの特等Aは2名定員だが1名利用でも乗船可能(料金は2名分か1名+室料の差額方式、便によって異なる)。新日本海フェリーのスイートも同様で1名乗船を受け入れる。今回紹介した3軒の陸宿も、いずれも一人利用プランを通年で用意している。
Q. ベストシーズンはいつですか?
A. 編集部が推す時期は2026年7-9月。長距離フェリーは夏の夕陽と夜空、翌朝の日の出が一晩のなかに収まる季節が最も美しい。冬季は海象によって欠航・遅延が増えるため、ソロ旅の時間設計に余裕を持たせるなら盛夏が向く。登別と由布院は10月以降の紅葉期も別の魅力があるが、その場合フェリー側の時化リスクと相談する形になる。
Q. 船室の食事だけで足りますか?
A. 太平洋フェリー・新日本海フェリーともレストランで夕食バイキングと朝食を提供しており、別途持ち込みも自由。コンビニで好みの夜食や缶ビールを揃えてからの乗船を勧める。船室のテレビと小机があれば、本を読む・原稿を書く・映画を観るといった「自分だけの時間」が確保できる。
Q. 翌夜の宿の予算をもう少し抑えたい場合は?
A. 望楼NOGUCHI登別の代替として登別温泉街には同系列の登別万世閣(中規模旅館、5万円台)が、由布院ことぶき花の庄の代替として湯布院街には2〜3万円台の小規模旅館が多数ある。一方ノイシュロス小樽は張碓の立地そのものが唯一の選択肢のため、同価格帯を望むなら別エリアでの宿選びになる。
本記事の参考情報
・太平洋フェリー 公式 — 名古屋–仙台–苫小牧航路の運航スケジュール
・新日本海フェリー 公式 — 舞鶴/敦賀–小樽航路の客室種別と料金
・フェリーさんふらわあ 公式 — 大阪/神戸–別府航路の運航情報
・Wikipedia: 登別温泉 — 北海道屈指の温泉地の歴史と泉質
・Wikipedia: 由布院温泉 — 湯布院の地理と温泉文化
編集部から
「移動」と「滞在」を分けないこと。これが2026年のソロ旅で40-50代男性が静かに取り戻している時間の使い方である。新幹線や飛行機は早いが、早すぎることで失うものがある。長距離フェリーの12〜20時間は、ホテルの一晩と等価の体験として再評価されつつある。デッキの夕陽、ラウンジの夜更け、客室の静かな夜、デッキで迎える日の出。そのリズムを途切れさせずに翌夜の陸宿につなぐとき、1泊2日のホテル滞在では得られない時間の厚みが生まれる。本稿で取り上げた3パターンはいずれも、船を降りてから1時間以内に到着できる宿を選んだ。次に夏のフェリー欠航期前の最終便を取るなら、どこから乗ってどこで泊まりますか。