2026年の大人旅で「ゴルフ&スパ」が見直されている理由は、18ホールを回り切る一日から、半日のプレーと温泉、早めの夕食で組み立てる滞在へと、旅の目的が競技から回復に移ったことにあります。スコアを縮めるための遠征ではなく、歩いて、湯に浸かり、よく眠るための一泊。本稿では、海外の検索動向と国内自治体の動きを手がかりにこの変化を読み、ゴルフ場と温泉が歩ける距離、または車で10分ほどの距離に揃う歴史ある宿を三軒、作例として取り上げます。芝の色が落ち着き、湯が恋しくなる10月から11月は、その組み合わせを試すのに向いた季節です。
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。
検索の数字が示したもの
きっかけは一本の報告でした。2025年10月、海外の旅行大手と検索大手が共同でまとめた旅行トレンドの報告のなかで、「ゴルフ&スパリゾート」の検索が前年比300%増、「スキー&スパ」が同250%増と示されています。置かれていた章の主題は「癒やすための旅」。体を動かすことと休ませることを、ひとつの滞在に束ねる動きとして紹介されました。
断っておくと、これは世界全体の検索を対象にした一つの報告であり、日本国内の予約がそのまま3倍になったという話ではありません。それでも編集部がこの数字に目を留めたのは、国内の自治体の動きと方向が重なるからです。栃木県は2026年度、訪日客の滞在を長くする資源としてゴルフを位置づけ、受入体制を整える事業を進めています。7月29日には、県内の事業者や市町の担当者に向けた講演会とワークショップが企画されました。狙いはプレー人口の拡大というより、泊まる理由をつくること。ゴルフが「日帰りのスポーツ」から「滞在の核」へ読み替えられている、と言えます。
18ホールを回り切らない、という選択
早朝に出て、昼食を挟んで18ホール、風呂は15分、渋滞のなかを帰る。日本のゴルフは長くそういう一日でした。屋外で過ごす遊びとしてゴルフがあらためて見直されたと言われるこの数年、変わったのは人数よりも時間の使い方だと編集部は見ています。
9ホールであれば、歩く時間はおおむね2時間から2時間半。午後の早いうちに上がれば、湯に浸かり、明るいうちに食前の一杯を飲み、18時台に夕食の席につけます。体に残るのは心地よい疲れで、翌朝に持ち越す重さではありません。膝や腰と相談しながら遊ぶ年代にとって、回り切らないことは妥協ではなく設計です。
そして湯。今回取り上げる宿の温泉は、公式の掲示で適応症に神経痛などを挙げています。温泉が何かを治すと言いたいのではありません。歩いたあとの体を温める場所が宿の中にあること、その一点が、半日ゴルフという過ごし方を成り立たせています。
「併設」か「車で10分」か — 三軒の作例
条件は単純です。ゴルフ場が敷地内か徒歩圏、遠くても車で10分ほど。本格的な温泉があること。そして、プレーをしない同行者にも居場所があること。この三つを満たす宿は、実は戦前から続くリゾートに多く見つかります。新しい流行に見えるものの原型は、90年前にすでに出来上がっていました。
川奈ホテル — 静岡県伊東市
相模灘を見晴らす1936年創業のクラシックホテル。コースと温泉が館から歩ける距離に揃う、この主題の原型。
クラシックリゾートホテル。
目安価格 ¥84,000–¥150,000 / 泊 (2名1室・通常期)

先にコースがあり、あとから宿が建った場所です。最初のコースの開場は1928年、宿泊施設としての開業は1936年。2026年は創業90周年にあたります。2階の連絡通路でつながる宿泊者専用の温泉施設には、露天風呂とサウナ、貸切のプライベートバス、リラクゼーションルームが揃い、男性用の露天風呂は前庭にコースの景色を再現するという念の入れよう。プレーを終えて館に戻り、そのまま湯へ向かう動線が、建物の構成として用意されています。価格は三軒のなかで最も高い帯。それを承知で、編集部がまず名前を挙げたい一軒です。
- 最寄り駅: 伊豆急行 川奈駅。JR伊東駅から無料シャトルバス(迎えは 1 日 3 便)
- 客室サイズ: 26.4〜156.7 ㎡(スイート含む)
- 温泉: 宿泊者専用。5:00〜11:00 / 13:00〜24:00
- 創業: 1936年(最初のコースは1928年開場)
- 駐車場: 屋外・無料
雲仙観光ホテル — 長崎県雲仙市
1935年開業の山岳クラシックホテル。車で約10分に9ホールのコース、館内に源泉かけ流しの硫黄泉。
登録有形文化財のクラシックホテル。
目安価格 ¥80,000–¥108,000 / 泊 (2名1室・通常期)

「9ホールと温泉」という本稿の主題を、最も素直に体現する場所です。宿から車で約10分のところに、1913年に開場した国内で最も古いパブリックコースがあり、その規模はいまも9ホール。回り切っても半日です。宿は1935年10月10日の開業で、ハーフティンバーのスイスシャレー様式を取り入れた建物は国の登録有形文化財。ドーム型の天井とステンドグラスを配した浴室に、pH2.0の酸性の硫黄泉が源泉かけ流し(加水あり)で注がれています。併設ではなく「車で10分」の型ですが、山を下りずに一日が完結するという点で、編集部の印象に強く残ります。
- ゴルフ場まで: 車で約 10 分(9ホールのパブリックコース)
- チェックイン: 14:00〜(最終 21:00) / アウト 〜11:00
- 温泉: 宿泊者専用。6:00〜9:00 / 14:00〜24:00、貸切の家族風呂あり(予約制)
- 創業: 1935年(2003年に国の登録有形文化財)
- 館内の注意: 文化財保護のためエレベーターなし。客室は主に2・3階
NEMU RESORT HOTEL NEMU — 三重県志摩市
英虞湾を望む半島の先のリゾート。隣接コースの練習エリアまで徒歩約5分、自家源泉を含む三種の湯。
ヴィラを併設するリゾートホテル。
目安価格 ¥50,000–¥82,000 / 泊 (2名1室・通常期)

三軒のなかで最も「いま」の顔をしているのがここです。かつて合歓の郷と呼ばれたリゾートで、2026年4月に一部の客室を改装し、ヴィラ棟を新たに開けました。隣接するシーサイドコースの練習エリアまでは徒歩5分ほど。滞在しながらラウンドの前後に練習するという過ごし方を、コース自身が勧めています。湯は三種。自家源泉のナトリウム・塩化物温泉に、地元の製薬会社と開発した二つの湯を巡る構成です。目安価格は三軒で最も手の届きやすい帯にあり、この過ごし方を最初に試す一軒として編集部は推します。
- 最寄り駅: 近鉄 賢島駅から無料送迎バス(要予約)。賢島港からマリンタクシーで約 15 分(予約制)
- ゴルフ場まで: 隣接コースの練習エリアへ徒歩約 5 分
- 温泉: 6:00〜10:30 / 15:00〜24:00。自家源泉のナトリウム・塩化物温泉ほか計 3 種の湯
- リニューアル: 2026年4月(客室の一部改装、ヴィラ棟の開業)
- 食事: 朝食は和洋ブッフェ、夕食は三重県産の食材を軸にした和食コースと洋食アラカルト
なぜ「静かに」なのか
三軒に共通するのは、ゴルフを前面に押し出していないことです。クラシックホテルとして、あるいは湾を望むリゾートとして泊まりに来た人が、滞在の一部として芝の上を歩く。かつての接待ゴルフのような賑やかさはなく、同行者の片方だけがプレーし、もう片方は湯とラウンジで午後を過ごすという使い方も成り立ちます。
だからこの回帰は、ブームという言葉が似合いません。新しい施設が次々に建ったわけではなく、90年前からそこにあった組み合わせに、時間の使い方を変えた旅行者が戻ってきた。編集部はそう読んでいます。朝から晩まで予定を詰める旅に疲れた人ほど、「9ホールで上がる」という引き算の効き目を感じるはずです。
本稿で触れた宿
| ホテル | エリア | 目安価格 | ゴルフ場との距離 / 湯 |
|---|---|---|---|
| 川奈ホテル | 静岡県伊東市 | ¥84–¥150k | 敷地内にコース / 宿泊者専用の温泉施設、露天・サウナ・貸切風呂 |
| 雲仙観光ホテル | 長崎県雲仙市 | ¥80–¥108k | 車で約10分に9ホール / 源泉かけ流し(加水)の酸性硫黄泉 |
| NEMU RESORT HOTEL NEMU | 三重県志摩市 | ¥50–¥82k | 練習エリアへ徒歩約5分 / 自家源泉を含む3種の湯 |
よくある質問
Q. ゴルフ&スパの旅に向く季節はいつですか?
A. 編集部が推すのは10月から11月、そして4月から5月です。日中は歩いて汗ばむ程度、上がったあとの湯が心地よく感じられる気温になります。山の上にある雲仙は平地より冷えるため、晩秋は一枚多めの防寒を。海沿いの伊東と志摩は風の強い日があり、午前のうちに回り終える組み立てが無難です。
Q. 9ホールだけのプレーはどこでも予約できますか?
A. できるとは限りません。ハーフのみの枠は、コースや曜日、季節によって設定が異なります。本稿の三軒では、雲仙観光ホテルの近くにあるコースがもともと9ホールの規模です。ほかの二軒については、宿泊予約の際に宿またはコースへハーフプレーの可否と開始時刻を確かめておくと、半日の計画が崩れません。
Q. ゴルフをしない同行者は何をして過ごせますか?
A. 三軒とも、プレーをしない人の居場所が用意されています。川奈ホテルは宿泊者専用の温泉施設にリラクゼーションルームと湯上がりラウンジがあり、NEMU RESORT は三種の湯を巡る構成。雲仙観光ホテルは温泉街の散策に歩いて出られます。片方がコースに出ている2〜3時間を、もう片方が無理なく過ごせることが、宿選びの分かれ目になります。
Q. 予算はどのくらい見ておけばよいですか?
A. 宿泊の目安価格は、1泊2名1室でNEMU RESORT HOTEL NEMU が¥50,000〜¥82,000、雲仙観光ホテルが¥80,000〜¥108,000、川奈ホテルが¥84,000〜¥150,000です。いずれも公開販売価格の集計に基づく参考値で、食事の有無や客室タイプによって幅が出ます。プレー代は別にかかるため、宿泊とセットのプランがあるかを公式サイトで見比べたいところです。
Q. 車がなくても行けますか?
A. 川奈ホテルはJR伊東駅からの無料シャトルバス、NEMU RESORT は近鉄賢島駅からの無料送迎バス(要予約)が用意されています。雲仙観光ホテルは山上の温泉街にあり、ゴルフ場までは車で約10分の移動が必要です。クラブを持ち運ぶ旅では、宅配の利用と送迎の予約時刻を先に決めておくと、移動の負担が大きく減ります。
本記事の参考情報
・栃木県: インバウンドゴルフツーリズム推進に向けた講演会・ワークショップ — 自治体による受入体制整備の動き
・環境省: 雲仙天草国立公園 — 雲仙の自然と国立公園の概要
・Wikipedia: 雲仙温泉 — 温泉地の歴史と地理の背景
編集部から
三軒を並べてみて残ったのは、ゴルフと温泉の組み合わせが新しい発明ではなく、昭和の初めに完成していた様式だという実感です。変わったのは泊まる側の時間の使い方でした。回り切らない、詰め込まない、早く食べて早く眠る。その引き算が、古いリゾートの設計とよく噛み合います。本稿では海と山の三軒に絞りましたが、那須や榛名、宮崎にも、ゴルフ場と温泉が近い宿は見つかります。高原の涼しさのなかで歩く夏のハーフラウンドは、また別の話になるはずです。次の休みに、あなたは何ホールで上がることにしますか。



