三重県志摩市・賢島の志摩観光ホテルは、1951年開業の日本初の本格的な戦後洋式リゾートホテルであり、英虞湾を見下ろす地形そのものを客室と食卓に取り込んだ一軒である。ここでは「泊まる」ことが、そのまま御食国・志摩の食文化と、真珠養殖という産業の歴史をたどる行為になる。2016年のG7伊勢志摩サミット主会場として国際的に知られる宿だが、編集部が今あらためて一軒だけを取り上げる理由は別のところにある。海の幸フランス料理という独自の様式、村野藤吾が引いた建築の線、そして湾の上で完結するアクティビティ群。この三つが一つの敷地に同居している例は、国内でもきわめて少ない。

棟 開業 客室 広さ IN / OUT 目安価格 1行特徴
ザ クラシック 1951年(現棟は1969年) 114 28〜96㎡ 14:00 / 11:00 ¥44–¥150k 村野藤吾の系譜を継ぐ本館。歴史と眺望を同時に取る棟
ザ ベイスイート 2008年 50 100〜210㎡ 15:00 / 12:00 ¥101–¥196k 全室スイート・全室100㎡超。静けさと余白を優先する棟

※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。下限は素泊まり・朝食付の基本プラン、上限は2食付や上位客室を含む幅として読んでください。


志摩観光ホテル — 三重県志摩市・賢島 · 英虞湾に突き出す岬に建つザ クラシックとザ ベイスイートの空撮
PHOTO: 志摩観光ホテル — 公式サイトを見る →

一軒の輪郭 — 数字で見る志摩観光ホテル

英虞湾に突き出した岬をまるごと敷地とする、宿泊2棟+パブリック棟の複合リゾート。

志摩観光ホテルは、近鉄賢島駅から車で数分の岬に、ザ クラシック、ザ ベイスイート、そしてパブリックスペースであるザ クラブの3棟を配する。宿泊できるのは前二者で、合計164室。3棟は森の中を通る遊歩道で結ばれており、館内移動そのものが散策になる構造をとる。

具体情報

  • 所在地: 三重県志摩市阿児町神明731(賢島)
  • 最寄り駅: 近鉄賢島駅。駅とホテルを結ぶ無料シャトルバスが運行(車で約2分)
  • 客室数: 計164室(ザ クラシック114室/ザ ベイスイート50室)
  • 客室サイズ: 28〜96㎡(ザ クラシック)/100〜210㎡(ザ ベイスイート)
  • チェックイン: ザ クラシック 14:00〜/アウト〜11:00、ザ ベイスイート 15:00〜/アウト〜12:00
  • 食事: 館内5店。ラ・メール ザ クラシック、ラ・メール(フレンチ)、浜木綿(和食)、山吹(鉄板焼)、リアン(カフェ&ワインバー)
  • 駐車場: 110台。EV充電設備あり
  • 開業: 1951年4月3日。1969年に新館(現ザ クラシック)、2008年にザ ベイスイート
  • 言語対応: 公式サイトは英語・韓国語・中国語(簡体/繁体)に対応

歴史と建築 — 1951年、戦後日本が最初につくった洋式リゾート

1951年4月3日、この宿は25室で開業した。設計は村野藤吾。戦後日本がまだ資材にも意匠にも余裕を持たなかった時期に、鈴鹿の旧海軍施設から転用した材と、陶芸家・川喜田半泥子が寄贈した梁や柱を組み合わせて建てられている。ありあわせの素材から始まった建築が、結果として日本の戦後リゾートの原型になった——この経緯が、志摩観光ホテルという固有名の重みを決定づけている。

同年11月には昭和天皇が行幸し、英虞湾の眺めを詠んだ御製が残された。1969年7月22日には新館が竣工し、客室数は200室規模に達して国内最大級のリゾートホテルとなる。この新館が、現在「ザ クラシック」と呼ばれている棟の系譜にあたる。2008年10月10日には全室100㎡超という思い切った構成でザ ベイスイートが開業し、一軒の中に半世紀以上の時間差を持つ二つの建築が並び立つ現在の姿になった。

文学の記憶も濃い。山崎豊子は1955年から2007年までこの宿に通い続け、『華麗なる一族』の舞台としてここを描いた。建築、皇室、文学、そして2016年のG7伊勢志摩サミット。一軒の宿にこれだけ層の異なる記憶が積み重なっている例は、そう多くない。


志摩観光ホテル ザ クラシック — 志摩市賢島 · 木の内装と英虞湾を切り取る横長窓を備えた客室
PHOTO: 志摩観光ホテル ザ クラシック — 公式サイトを見る →

御食国の食卓 — 「海の幸フランス料理」という一軒だけの様式

志摩国はかつて朝廷に海の幸を納めた御食国。その系譜を、フランス料理の技法で受け直した宿である。

志摩観光ホテルの食を語るとき、避けて通れないのが「海の幸フランス料理」という自称だ。伊勢海老、鮑、そして三重の畜産を、フランス料理の骨格に落とし込む。この様式を現在率いるのが総料理長・樋口宏江で、G7伊勢志摩サミットで各国首脳に供された料理も、この系譜の上にある。

館内には5つの飲食施設がある。ザ クラシック1階の「ラ・メール ザ クラシック」、ザ ベイスイートの「ラ・メール」、和食の「浜木綿」、鉄板焼の「山吹」、そしてカフェ&ワインバー「リアン」。山吹とリアンはパブリック棟のザ クラブに入っており、宿泊棟を問わず利用できる。

近年は「伊勢志摩ガストロノミー」として、地域の生産者と組んだ企画が定期的に立つ。たとえば2026年10月には、伊勢志摩初のワイナリーである伊勢美し国醸造所の醸造長を招いたメーカーズディナーが予定されている。このワイナリーは、廃棄される伊勢志摩産の牡蠣殻を畑に還してミネラルを補うという土壌づくりを行っており、料理と酒の双方が同じ湾の循環の中にある。食を通じて土地を学ぶという本記事のテーマが、もっとも具体的な形をとる場面と言える。


志摩観光ホテル — 伊勢海老を主役にした海の幸フランス料理の一皿
PHOTO: 志摩観光ホテル — 公式サイトを見る →

海女と真珠 — 湾の産業を、滞在の射程に入れる

英虞湾は、真珠養殖の主要産地として知られる。窓の外に浮かぶ細長い筏の列は景観のためではなく、現役の生産設備である。そして志摩・鳥羽一帯は、素潜りで貝や海藻を採る海女漁が今も続く数少ない地域でもある。夏の7〜8月は海女漁の繁忙期にあたり、湾の表情がもっとも働く季節になる。

この文化に触れる導線は、宿の内と外の両方にある。館内側では、真珠を用いたクラフト体験をはじめとする工房系のプログラムが用意されている。宿の外に出るなら、車で約40分のミキモト真珠島で、白い磯着をまとった海女の実演が毎日行われている。真珠養殖の成立史を扱う展示と実演を一度に見られる場所は、ほかにない。さらに踏み込むなら、鳥羽市浦村町の海の博物館が、漁具や木造船を軸に伊勢志摩の海の生業を通史的に扱う。

編集部がこの宿を「泊まって学ぶ」と位置づけるのは、こうした施設が近いからではない。窓の外の筏と、皿の上の伊勢海老と、車で40分の海女の実演が、すべて同じ湾の話として繋がっている点にある。滞在の翌朝、湾を見る目が前日とは変わっている。それがこの宿の効き目である。


賢島の桟橋と英虞湾 — 志摩市 · 対岸に真珠養殖の筏が並ぶリアス海岸の入り江
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滞在の体験 — 2棟の性格差と、湾の上で過ごす時間

まず棟選びが、この宿での滞在設計の第一歩になる。ザ クラシックは28㎡のコンフォートツインから96㎡前後のロイヤルスイートまで幅が広く、歴史ある本館の空気と眺望を、比較的手の届く価格帯で取りにいける。一方のザ ベイスイートは全50室すべてが100㎡以上で、コーナースイートは110㎡、ロイヤルスイートは210㎡(いずれもバルコニー含む)。和布団を敷く「FUTONスイート」や、ジェットバスを備えた「スパスイート」といった構成もあり、部屋の中で完結させたい滞在に向く。

アクティビティは湾を主舞台とする。5〜10月はチャーターと乗合の両方が選べる「ラウンジクルーズ志摩」、11〜4月は乗合の「マリンキャブ」が就航し、英虞湾を海側から見る時間がつくれる。湾を知り尽くした船頭が案内する遊漁も用意される。夕刻から夜にかけては、マジックアワーと星空観察を組み合わせた会や、満月の観望会が星空案内人の解説つきで開かれる。朝はリラクゼーションヨガとストレッチ、夜はムーンライトヨガ。3棟を結ぶ遊歩道でのガーデンウォーキング、電動アシスト自転車のレンタル、eau Spa のトリートメントまで含めると、敷地から一歩も出ない滞在が成立する密度がある。


志摩観光ホテル ラ・メール — 志摩市賢島 · 英虞湾に面した大窓とシャンデリアを備えたフレンチレストラン
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集約レビューが映すこの宿の本質

公開レビューデータを集計すると、この一軒の評価は棟によってはっきり分かれる。ザ ベイスイートは母数の大きさに対して評点が高く安定しており、広さ・静けさ・眺望という三点が揃った体験が、期待どおりに提供されていることがうかがえる。対してザ クラシックは、評点の分布がより広い。長い歴史を持つ建物であること、価格帯の幅が大きく期待値の設定が人によって異なることが、その散らばりの背景にあると読める。

両棟に共通して支持が集まるのは、食と眺望である。海の幸フランス料理という様式そのものへの評価と、湾に面した席から見える景色への評価は、棟を問わず高い水準で一致している。一方で、館内が広く棟間の移動が生じる点、そして相応の価格帯であることは、評価が分かれる要因として一定の存在感を持つ。総じて、「何を目的に来たか」が満足度をほぼ決める宿だと言える。

立地と周辺 — 賢島という終着駅の効用

賢島は近鉄志摩線の終着駅である。名古屋・大阪・京都から特急一本で到達でき、そこから先に線路がない。この「行き止まり」という地形的条件が、通過交通を排し、湾の静けさを保っている。ホテルは駅から車で約2分の岬にあり、無料シャトルバスが結ぶ。駐車場は110台、EV充電設備も備える。

周辺で編集部が推したいのは、車で約15分の横山展望台。標高203mから英虞湾に浮かぶ約60の島々を一望でき、ミシュラン・グリーンガイド・ジャポンで一つ星を得ている。滞在中に湾を「上から」見る経験を一度挟むと、客室から見る水面の意味が変わる。北へ向かえば鳥羽の海女文化圏、伊勢神宮も日帰りの射程に入る。


英虞湾 — 三重県志摩市 · 約60の島々が浮かぶリアス海岸を高所から望むパノラマ
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向く人 / 向かない人

  • 向く:
    食を旅の主目的に置く人、建築史・戦後リゾートの成り立ちに関心がある人、記念日に2泊して敷地から出ない滞在を組みたい二人旅、日本の海の生業を体系的に見たい海外からの旅行者
  • 向かない:
    温泉大浴場を旅の主目的とする人(この宿の軸は湯ではなく食と眺望)、観光地を数多く回りたい旅程(賢島は終着駅で移動に時間がかかる)、1泊あたりの予算を抑えたい旅、館内の移動距離を負担に感じる人

HotelPicks Score

94 / 100 — 内訳の考え方は、立地(英虞湾の岬をまるごと使う唯一性)/設備(100㎡超スイート50室を含む2棟構成)/体験(海の幸フランス料理と湾上アクティビティ)/価格感(幅の広さゆえ予算に応じた設計が可能)/編集適合度(「泊まって地域を学ぶ」というテーマへの一致度)の5軸。公開レビューデータを集計した評価の水準に、テーマ適合度の編集判断を加算して算出しています。

目安価格 ¥44,000–¥150,000(ザ クラシック)/ ¥101,000–¥196,000(ザ ベイスイート) / 泊(2名1室・通常期)

よくある質問

Q. ベストシーズンはいつですか?

A. 7〜8月は海女漁の繁忙期にあたり、湾がもっとも「働く」季節です。日没が遅く、英虞湾のサンセットと星空観察を一晩で組み合わせられるのもこの時期。ただし価格と混雑はピークになります。編集部が推すのは、気候が安定して海が穏やかな初夏(5〜6月)と、伊勢志摩ガストロノミー系の企画が立ちやすい秋(10〜11月)です。

Q. 予約のタイミングは?

A. 全50室のザ ベイスイートは母数が小さく、週末と連休は早い段階で埋まります。夏休みと年末年始を狙うなら3〜4か月前、通常期の週末でも1〜2か月前には動かしたいところ。ザ クラシックは客室数が114室と多く、直前でも選択肢が残りやすい傾向があります。館内レストランの席は宿泊とは別枠のため、食を目的にするなら宿泊確定と同時に押さえるのが確実です。

Q. 子連れでも泊まれますか?

A. 泊まれます。ザ クラシックのコンフォートツイン(28㎡)とプレミアムツイン(36㎡)は3名まで対応する設定があり、ザ ベイスイートには和布団を敷ける「FUTONスイート」(100㎡・3名まで)が用意されています。プールなど家族向けの施設もあります。ただしレストランのドレスコードや、夜のコース主体という食事の性格を踏まえると、乳幼児連れの場合は事前に食事の形態を確認しておくほうが滞在が組みやすくなります。

Q. アクセスは?

A. 近鉄志摩線の終着・賢島駅が最寄りで、名古屋・大阪・京都から特急でアクセスできます。駅とホテルは無料シャトルバスで結ばれ、所要は車で約2分。車の場合は駐車場110台とEV充電設備があります。伊勢神宮や志摩スペイン村と結ぶ路線バスも運行しています。

Q. インバウンド客の利用は?

A. 2016年のG7伊勢志摩サミット主会場という経歴から国際的な知名度が高く、公式サイトは英語・韓国語・中国語(簡体/繁体)に対応しています。真珠養殖と海女漁という、他国では見られない海の生業がセットで学べる立地であること、そして「和食」ではなくフランス料理の技法で地域の食材を提示する点が、訪日リピーター層の関心と噛み合いやすい構成です。

Q. ザ クラシックとザ ベイスイート、どちらを選ぶべきですか?

A. 予算と目的で割り切れます。1951年開業という歴史の側に立ちたい、あるいは価格を抑えて食を優先したいならザ クラシック。客室で過ごす時間を長く取りたい、全室100㎡超という余白そのものを買いたいならザ ベイスイート。館内のレストランはどちらの棟からも利用できるため、食の選択肢に差は生じません。

本記事の参考情報

・志摩観光ホテル 公式サイト「クロニクル」 — 開業年・設計者・各棟の竣工年
・志摩市観光協会 — 志摩市エリアの観光情報
・伊勢志摩観光ナビ(伊勢志摩観光コンベンション機構) — 伊勢志摩広域の交通・スポット情報
・Wikipedia: 英虞湾 — リアス海岸の地理と真珠養殖の背景

編集部から

志摩観光ホテルを一軒だけで取り上げたのは、この宿が「立地の良い高級ホテル」という枠に収まらないからです。1951年に資材の乏しさの中から生まれ、天皇の行幸を受け、小説の舞台になり、サミットの会場になった。そのすべてが、英虞湾という一つの湾を見下ろす同じ岬の上で起きている。宿を選ぶという行為が、そのまま土地の歴史を選ぶことに重なる例は多くありません。夏の海女漁、秋のガストロノミー企画、冬の澄んだ星空——同じ客室から見える湾が季節ごとに別の顔を持つとき、あなたはどの季節の英虞湾を最初に見たいでしょうか。

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